奇書・・・っていうと、それが異端とか妄想であっても、ちょっとロマンティックなものを想像します。
異世界を描いたもの、人外境を旅するもの。
その世界がエロティックなものであろうと、どんなにグロテスクなものであろうと、この世でないものへの憧れはロマンティックなものでしょう。
う~ん・・・今回読んだ本は、そういう意味で「奇書」と呼ぶにはいささか現実的。
というかかなり格調にかける・・・というか格調なんて一切ない。
でも「奇書」は「奇書」なんだろうなぁ・・・。本の裏表紙にもそう書いてあるし。。。
もう一つ。
奇書と呼ばれるものには、タブーに触れたものが多い。
普段人が書かないもの=タブーなので、これはそういうものでしょう。
タブーにもいろいろあります。
性、犯罪、精神世界、密教・・・
これらはそれぞれ日常的に触れるものではないからこその魅力があります。
良いものであれ悪いものであれ、人を魅了する妖しい光を放ちます。
でも、ここにひどく日常的で人を惹きつける力のないタブーが存在します。
ウンコです。
村上龍も小説「69」の中でこう書いています。
「ウンコには思想がないからだ」
と、くどくど書いているのは伊沢正名の、タイトルもずばり「くう・ねる・のぐそ」(やまけい文庫)を読んで、あまりの素晴らしさに驚いたからなのです。
そう、ウンコですらタブーなのに、この本はさらに上を行くタブー「野糞」について書かれた本なのです。
スゴイ!
う~ん・・・もしなんか食ってる人いたら、この辺でやめましょうね。。。
著者はキノコやコケ類を扱うフォトグラファー。
若い頃に地元での屎尿処理施設建設への反対運動を体験し、人間の屎尿処理問題について考えます。
で、屎尿処理施設などなくても、野糞をして自然に返せばいいじゃないか・・・と考え、行動に移します(このへんの論理展開がよく分からないけど・・・)。
当初は恐る恐る、次第にコツを掴んで大胆に。
独自の方法論「伊沢式野糞法」を確立し、ついには年間野糞率100%を達成。
さらには、野糞千日行の(現代人にとっては)前人未到のチャレンジに成功します。
さらにさらには、野糞が土に還る様を観察し、自らを「糞土師」と称して、全国での啓蒙活動に乗り出しています。
(ちなみに、コケの魅力を語る人物としての「伝道コケ師」という称号ももってるみたいです)
いやぁ・・・恐ろしい人がいたものですね。。。
こういうたぐいの本を読むと、ついつい引き込まれて、自分もやってみたくなったりするものですが、
う~ん・・・今回は私は無理です。。。
なんかでも、この人の野糞にかける情熱を聞いているとついついつり込まれて読み進めてしまいます。
海外での野糞、都会での野糞、はハラハラドキドキの冒険談でもあります。
足元を見据えた自然観察は、驚きに満ちています。
おそらく、日本の出版物の中でも一番多く「ウンコ」という活字が印字された本ではないでしょうか?。
(ちなみに、ブツの写真も載ってたりします・・・)
ついでに、好きでやっていることは「趣味」です。
でもこれが高じると、人は方法論や思想を求めたくなってきます。
ゴルフだって野球だって、アニメだって釣りだって同じことです。
そして、思想が整うと、美学が生まれます。
このあたりから、「道」と呼んだ方が良いように思います
「道」が生まれると、より高みに辿りつくために「行」を行いたくなります。
この本で描かれているのは、伊沢さんの「野糞道」への道のりです。
何か一つのことに情熱を傾ける人の姿というのは、いつだって美しいものなのです(・・・のはずなんだけどなぁ・・・)
とにかく、ここ数年で一番ぶっ飛んだ一冊でした。