旅とは…なんて語るほど旅慣れてもないし、旅行好きでもないですが、
私にとって旅の魅力って、普段見掛けない風景を見ることです。
だから写真で見慣れた観光地とかはあんまり楽しくなくって、
どこにでもあるチェーン店なんてのは意地でも入る気なくって、
旅先の町独特の風景なんてものに出会えた時が一番嬉しい。
も少し言うと、軽く迷子になってみたい。
見慣れない景色の中で、ルールも作法も分からない町の中で右往左往してみたい・・・というのが、私が旅に望むものです。
ガケ書房の平台で見かけた「足摺り水族館」という本は、新刊本のくせに妙に古びた装丁の本でした。
表紙に描かれた路地の風景は、少しさびれた昭和の海辺の町を思わせて
子供の頃、自転車こいで行った町の風景を思い出させます。
構図が少し歪んでいるのも、かえって何となくリアルで、記憶の中の幻の風景といった気がしてきます。
よ~く見ると、ヘンな植物や看板、家々だって人が住んでるんだか…生活感がありそでなさそで…、佇んでいる女の子はたぶんこの路地に迷い込んでしまったんだろう…、でも、途方に暮れてるって訳でもなくって、へぇ~とか思いながら、ほんのりの困惑とドキドキを胸に、この懐かしいような異世界のような町をさまよっているんだろうなぁ…なんて思います。
色合いもなんだかくすんでいるし、何といっても本にかけられたビニールカバー(下の画像じゃ分からないけど・・・)が効いています。
そういや、最近こんなビニールカバーかけた本って見なくなったなぁ…。
なんて思いながらついつい手に取ってしまったのです。
中をパラパラっと捲ると、紙もずいぶん古臭い感じの質のものを使っていて、なんとも懐かしい雰囲気。
中身は漫画で、なんだか不思議なムード。
精密に書きこまれた背景に、登場人物はラクガキみたいなタッチで描かれてる。
表紙絵の風景みたいに細かいところまで書きこまれた絵があったと思うと、下書きのまま放置したんじゃないかって絵もある。
カラーの図鑑みたいなタッチの魚の絵と文章があったと思えば、滲んだような輪郭の曖昧な絵もあったり…。
ふ~ん…、なんだか変な本だなぁ…。
1月と7月社なんて出版社も聞いたことないし…。
と、本を平台に戻して、またウロウロ。
ぐるっと一周しては手にとって、どうも気になるので諦めて買いました。
本好きの人は1度や2度経験あるでしょう…。本によばれるというヤツですね。
家に帰って読んでみると、ますます不思議な気分になるのでした。
主人公の女の子が、怪しげな町を通り抜けて、水族館に行くだけの表題作。
お母さんに頼まれたよく分からない品を求めて、無いものは無い商店街に迷いこむ「完全商店街」。
無いはずの第2・第3の京都タワーを探して、京の町をさまよう「イノセント・ワールド」
異国の街を散歩する内、死者の町に迷いこんでしまう「冥土」。
作品の合間合間に、魚についての絵やエッセイがあったり、著者が撮った廃墟の写真があったり、
ただのラクガキじゃないのか?と思わせる「無題」という作品があったり…。
なんとも怪しげなのです。
この本自体が、一つの異界になっていて、
私自身がついうっかりそこに足を踏み込んでしまったような気分になってしまうのです。
ヘンな本だなぁ・・・と思いながら、ちょっと感心してしまった。。。
しばらく経って、先ごろ作者のpanpanyaの単行本「蟹に誘われて」が出版されました。
今度はメジャー出版社、白泉社からの出版です。
ほぉ…と思って、こちらも買ったのですが、
キレイにまとまった分、怪しさが薄まった気がします。
本の中でも、なんだこりゃ!?って戸惑いながら、
ほんのりとした不安とワクワクを胸にしながら、その世界の中で迷子になってみたいのです。